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2010年8月5日号 
ミラー片手に歯科医師の本音
拡げなければ
新潟県小千谷市開業・コラムニスト 鞍立常行

 最近、加齢黄斑変性症のなどの来院喚起を促す薬品メーカー提供のCMが目に付きます。歯科では、メーカーの歯ブラシ、洗口剤などのコマーシャルは毎日テレビで流れていますが、「近くの歯医者さんで定期的に検診を受けましょう」というようなCMはありません。当然、歯科医療のパイが拡がればメーカーも売り上げ増となるわけで、広い意味での歯科界が一体となった需要の喚起はあっても良いはずです。

 また、日医が公的保険堅持を絶えず唱えている医科では、民間医療保険も大きく日本の社会にも広がりつつあります。生命保険の新規獲得が頭打ちの現在、保険会社のこれからの拡大のターゲットはこの医療保険、民間の介護保険との関係者の話でした。実は先日私も、従来入っていた保険から掛け金も安く、更に保障の充実した民間保険に更新しました。保険契約の特典として、24時間対応の電話健康相談や提携医療施設の人間ドック割引付きの至れり尽くせりのサービスもあります。公的保険の充実を図ることをベースに、更に民間保険を組み合わせることで医療全体のパイを拡げています。残念ながら、歯科では、民間保険の開発を進めようとしても、そのスタートである新たな診療技術の公的保険導入の基準が未だにクリアになっておらず、現時点での民間保険の拡がりは難しい状況です。財源問題でその適応拡大が難しい状況を考えれば、歯科での民間保険導入を議論もせずにタブー視する現状のムードは疑問を感じます。

 しかしながら、私が民間保険更新時の告知書の中には、「言語・咀しゃく機能に障害がありますか」という設問の一項目がありました。この設問は、咀しゃく障害が保険会社をも考える健康リスクの一つだということを、保険会社の経営的レベルで認めていることの証です。この「咀しゃく障害」という概念の普及が、歯科のパイの拡大の切り札になるかもしれません。

 これらの民間レベルでの動きの中に加え、民主党政権が促す医療介護分野の成長戦略での推進です。異業種が世界が大きく変化する中でも、医療分野は唯一成長を約束された市場として虎視眈々とその参入を伺っています。既に食品大手企業が、2014年度には1600億円に達すると予測されている介護食の拡大を進めているとの報道もありました。しかし、これも歯科界とのコラボするようなニュースまでは伝わってきません。それどころか、一部で口腔ケアを歯科医師の関与なしに進められるような動きもあるようです。せっかくの拡がる可能性のあるパイを、拡げるどころか奪われかねないようなことも考えられます。こうなるとある意味業種間での戦いです。しかし、口腔に関与する事業は、歯科界に従事するものが先導しなければならない権利と義務があるはずです。

 本来ならば、これだけ窮状となった歯科の方が、もっと必死になって需要を喚起しなければならないはずなのに、このままでは医科歯科格差は、保険点数どうこうの範囲を超えて更に広がるような流れが出来つつあります。何故、医科が出来て歯科には動きがないのか、それは業種の違いだけの問題ではありません。

 保険点数を上げることは、日本の歯科医療全体の基盤を安定させる歯科界の大きな活動の軸であることには異論はありません。しかし、高齢化社会が進み財政問題がいわれている中で、保険点数に固執しているだけでは歯科界の再生はあり得ません。業界としてのしっかりとしたガバナンスを保ちながら、歯科医療を一つの産業としてパイを拡げる別の視点もこれからは持ち合わせないと、歯科界は完全に社会から置き去りにされてしまいます。果たして、成長戦略としての歯科の可能性を歯科界全体で考え、議論し、具体的な政策として工程表をもって取り組むことは出来ないのでしょうか。

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