2. 相続人が海外に在住
歯科医を開業されていた高橋先生(仮名)が亡くなり、奥様が相談に来られました。お子様は二人いて、自由にのびのび育てられたということでした。その内の一人は海外に在住していました。
戸籍を集める段階で、
海外に在住する相続人の手続に行き詰まり、
どのように手続を進めればいいのか、悩んでおられました。

遺産分割協議書で手続きをするには、実印の押印と印鑑証明書が必要となりますが、相続人が海外に在住している場合は、印鑑証明書がないため、領事館でサイン(拇印)証明を受けていただくという手続が必要となります。この場合、あらかじめ遺産分割協議書を海外に送付しておく必要があり、手続に時間がかかり、面倒です。
ただ、海外で証明を受けなくても、相続人が一時帰国をする予定があるのなら、その帰国の際に日本の公証役場で公証人に遺産分割協議書を認証してもらえれば、手続の煩雑さが若干解消されます。奥様の場合は、息子Bさんがご相談の2か月後に帰国される予定とのことでしたので、息子Bさんには在留証明書だけを取得して帰国していただき、遺産分割協議書については公証役場で公証人に認証してもらいました。
この方法をとることによって、事前に遺産分割協議書を送付するなどの面倒な手続きも解消され、手続もスムーズに進み、奥様にもご満足していただきました。
■相続手続で必要な物
国内 | 海外 |
---|---|
相続人の印鑑証明 | 署名証明 (領事館に出向く必要あり) |
住民票 | 在留証明 (在外公館のみで発行している証明書で 日本では入手不可能) |
実印押印 | 実印押印 (あらかじめ遺産分割協議書を 海外に送付しておく必要あり) |

❷遺産分割協議書を
公証人役場で公証人に認証
今回のケースは、海外在住の方が相続人にいるケースで本来時間がかかるものですが、早目に相談にお越しいただいたことと、家族仲が良く定期的にお会いされている事が、手続をスムーズしてご家族の負担が少なくなったケースです。
このケースのように、相続人が海外にいて、対応が難しいケースでも遺言書を活用する事で、対応することができます。事前に遺言書を作成しておくことで、スムーズに手続を進められ、家族の負担を軽減できる事が多く有ります。事前に専門家に相談されておくことをお勧めします。
- ●相続人が海外にいる場合でも、
事前に遺言書を作成しておくことで、スムーズに手続きを進められ、
家族の負担を軽減できる。
署名証明(実印・印鑑証明の代わり)
日本に住民登録をしていない海外に在留している方に対し、日本の印鑑証明書に代わるものとして日本での手続きのために発給されるもので、申請者の署名(及び拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。証明の方法は2種類です。
- ①在外公館が発行する証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書を綴り合わせて割り印を行うもの
- ①申請者の署名を単独で証明するもの
発給条件は以下になります。
- ●日本国籍を有する方のみ申請が可能。
- ●本人が公館へ出向いて申請すること。(代理申請や郵便申請はできません)
在留証明(住民票の代わり)
外国にお住まいの日本人が当該国のどこに住所(生活の本拠)を有しているか、あるいは当該国内での転居歴(過去、どこに住んでいたか)を証明するものです。発給条件は以下になります。
- ●日本国籍を有する方(二重国籍を含む。)のみ申請が可能。
- ●現地にすでに3ヶ月以上滞在し、現在居住していること。但し、申請時に滞在期間が3ヶ月未満であっても、今後3ヶ月以上の滞在が見込まれる場合には発給の対象となります。
- ●在留証明は在外公館のみで発行している証明書です。外務省では在留証明の申請受理・発給の事務の取扱いは行っていないので、休暇や出張等での一時帰国の際に日本で在留証明書を入手することはできません。
海外に在留している日本人の相続手続き
相続手続には、相続人の実印と印鑑証明書が必要になります。また一部の手続で住民票も必要になります。日本での住民登録を抹消して外国にお住まいの方は、住民登録抹消と同時に印鑑登録も抹消されるため、上記資料を取る事が出来ません。そのため法務局や銀行等では、海外に在留している日本人には印鑑証明書に代わるものとして、署名証明の提出を求めています。